ストーリー
ちょうど7月のある日のことでした。
探偵小説作家を目指す僕は、執筆に行き詰まり、出くわした事件の数々を書き残した事件帖などを取出しては、
何か小説の参考になるものはないものかと、ひとり物思いにふけっていました。
一方その頃、
確かな事実だけを記事にすることを信念とした明治新聞社の若き女性編集長“春子”は、何かに思い煩ったように机に伏し、編集長室は珍しくしんと鎮まり返っています。数日、春子が引きこもっている編集長室からは、何か書き物をしているのか、紙の上を通る筆の音や、何か思い煩うような苦悶の声が、さも悲しげな調子で響いているのです。
ー編集長室ー
太郎「春子さん!春子さん!そ、それって日記帳ですか!?僕にも見せてもらえませんか?過去の取材内容を、僕の執筆の参考にさせてくださいよ~」
ここでいう“日記帳”とは、この新聞社の日報のようなもので、取材班が日々の報告として編集長に毎日提出しているもののようである。
春子「本当なら社外秘なんだけど…まあいいわ。はいこれ、いい原稿期待してるわよ」
取材の途中経過や描写などから、取材班の緊迫した日常を十分にうかがうことが出来ます。そこには、犯行未遂の疑いだとか、軽犯罪の類だとか、僕の日常では出会い切らない数々の取材報告が如何にも真摯な文章で書き綴ってあるのです。
受け取った日記帳を一枚一枚と読み進めていたとき、考え込んでいた春子が思わず軽い叫声を発したことで、僕は春子の目の前にある日記帳にひどくひきつけられました。
太郎「それは見せてくれないんですか?それって金之助さんのですよね」
春子「こ、これはダメなの。さっき渡したもので参考資料は十分でしょう?」
大事そうに抱えるその日記帳こそ、敏腕記者のそれだったのである。
「発信者」と印刷された場所に「明智金之助」と書かれた、その日記帳への強い興味にかられ、
太郎は調査に動き出すのであった————